灘岡研では,冒頭の基本方針に掲げているように,環境をできるだけ分野横断的・統合的に研究していくことを目指しています.また,人材の育成も,個別的な専門分野だけに強いというタイプよりは,現地(現象) をしっかり見て問題の所在の本質を理解し,その解決に向けて,なるべく広範な視点から(場合によっては他の様々な方と協力しながら) 立ち向かっていける人材を育てていくことを目標としています.私たちの研究室では,そのようなことに共感を覚えてくれる意欲あふれる学生さん を歓迎します.これまでの専門分野は基本的に問いません.なお,具体的なイメージを持っていただくために,一例として,最近,サンゴ礁研究に 興味を持ち,灘岡研究室を受験することを考えているある大学の学生さんからの問い合わせに対して応えた私の文章 を添付いたします.

メッセージ

サンゴ礁生態系は,熱帯・亜熱帯の比較的低栄養塩レベルの海域に,きわめて巧妙なバランス構造に基づいて豊かな生物相を形成しているユニークな生態系で,勉強すればするほど興味が深まっていく,大変面白い研究対象です.しかしこのサンゴ礁生態系を成立させている環境がいま危機的な状況になってきています.というのも,サンゴ礁生態系は,隣接する陸域での森林伐採などによる表層土壌流出や農地等からの栄養塩の過剰流入,流入土壌粒子のトラップ機能を持つと考えられている周辺マングローブ林の伐採,ダイナマイト漁等の違法漁業,さらには1998年に世界規模で発生したサンゴ白化現象の主因とされる広域的海水温上昇,など,様々な環境ストレス(それらは総じて何らかの直接的・間接的な人為起源 の環境影響です)にさらされているからです.しかも,それらは深刻化しつつあって,現在では,世界の約6割のサンゴ礁が危機的状況にあるといわれています.

私たちの研究室では,サンゴ礁生態系を適切に保全し,あるいはすでにダメージを受けてしまったサンゴ礁の回復を早めるにはどのようにすればいいかということを,さまざまなアプローチで研究しています.具体的には,サンゴの個々の生物に関する研究というよりも,サンゴ(それ自体多くの種類がありますが)を中心としてさまざまな生き物が互いに依存した形で成立しているサンゴ礁生態系が,全体としてどのような環境ストレスにさらされているかを,様々な現地調査やリモートセンシングによって明らかにすることを目指しています.また,サンゴという生物にとって,どの程度までの環境負荷ならば耐えることができるのかということも具体的に明らかにしていこうと考えています.

サンゴ礁生態系を考えるとき,それを単独に議論することは無理があります.周辺の陸域には多くの人間が棲んでいて,そこからなにがしかの環境負荷が不断にサンゴ礁生態系に作用しています.対象を「人間−サンゴ礁共存系」としてみたとき,サンゴ礁生態系を適切なレベルに維持していくには,人間の「棲み方」をどようにして行くべきかを考えることが重要になります.科学的な根拠に基づいて追求していくには,サンゴ礁生態系に及ぼす環境ストレスの内容とサンゴという生き物がその環境ストレスに対してどのように反応するか(耐えられるか)ということを定量的に明らかにしてやる必要があります.これによって,サンゴ礁という「海」の環境と,隣接する「陸」の環境を結びつけた議論ができるようになり,サンゴ礁生態系を具体的に保全していくための戦略的な議論を科学的な根拠を持って行うことができるようになります.私たちはそのことを特に重要視して研究を行っています.

サンゴ礁生態系の環境保全・回復というのは大変大きなテーマで,個々の専門分野の研究者が単独に進められるものではありません.そこで,例えば,研究室のHPに紹介しているような,様々な専門の方が集まった共同研究チームCREO(Coral Reef Environments in Okinawa)を組織して共同観測を実施する,ということを行っています.また,研究室自体も,もともと海洋物理的な部分が主体だったのですが,波利井さんのような海洋生物の専門家に助手として来ていただいて,分野横断・統合型の研究室にしていくことを強く意識しています.「環境」の研究は,本来,分野横断型・統合型でなければいけない,という強い理念に基づくものです.