開催趣旨

日本人の食文化と切り離せない食材にノリがある。江戸時代初期に遡るその養殖は、生産技術上、また加工技術上不断の研究と改良を経て、拡大する市場の要請に応えてきた。しかし一方では、天然水域を利用するがゆえの様々な不安定要素と無縁ではなく、ノリ葉体の芽落ち、色落ちなどの専門用語がマスメディアに登場することも珍しくはない。2001年には、有明海のノリ不作問題が大きく取りあげられたが、近年、日本各地のノリ漁場でも類似する様々な現象が報告されていたことを考えると、むしろノリ養殖が沿岸という広域システムの環境指標的な機能を持っているかのような印象さえ与えるものであった。これには、ノリの生物生産が栄養物質の供給などの面で陸域の恩恵を受けている反面、埋め立てや汚濁などの影響を直接・間接的に受けるなど、沿岸共通の問題にさらされていることが背景にあると考えられる。

 本シンポジウムは、ノリの生物特性、環境と養殖技術の関係などにみられる学術上の蓄積を基本的情報としたうえで、現在、各地の養殖漁場で起こっている問題について報告を受け、沿岸環境の変遷との関連を論議することはもとより、河川流域や沿岸における人間生活とのつながり、ノリ養殖と沿岸環境との調和まで話題にすることを視野に入れている。さらには、国民共有の財産である沿岸の利用・保全をどう捉えてゆくかなど、ジョイントシンポジウム懸案の課題について関連学会間の認識の共有を一層深められれば幸いである。