講演要旨

ジョイントシンポの趣旨説明(東京工業大学・灘岡和夫)

 環境問題における総合的な取り組みの重要性と学会の連携の必要性が強調され,
 これまでのジョイントシンポジウムの経緯と趣旨等について説明があった.

A.宍道湖・中海の環境と淡水化・干拓事業(座長:北海道大学・中尾 繁)

(1)淡水化・干拓事業の変遷(高安克己・島根大学汽水域研究センター)
 淡水化および中海の干拓事業の計画段階から,
 淡水化延期,本庄工区の干拓中止に至るまでの歴史を年を追って概観するとともに,
 その社会的,経済的な背景について説明があった.
 さらに,宍道湖・中海の現状と解決すべき今後の課題が示された.

(2)宍道湖・中海の総合管理(国土交通省出雲工事事務所・船橋昇治)
  斐伊川水系の概要および治水事業の必要性について説明があった.
 さらに昭和47年の豪雨災害を契機として計画された
 いわゆる洪水対策の3点セット(2つのダム,放水路,大橋川の掘削)が紹介された.
 また,宍道湖・中海の環境や保全整備計画について紹介があった.

(3)宍道湖・中海の物理環境(京都大学名誉教授・奥田節夫)
  宍道湖・中海を日本海〜境水道〜中海〜大橋川〜宍道湖という一連の水系としてとらえ,
 水系としての物理的な特徴について説明があった.
 潮位変動とその伝播,密度成層の形成と解消などが実測結果に基づいて紹介された.
 また汽水湖特有の塩水の挙動とそれに起因する密度成層/密度流が
 水域の物理現象を特徴づけており,これが貧酸素水塊の形成と密接に
 関わっていることが示された.
 さらに,水環境の修復対策技術検討のための物理的課題が述べられた.

(4)宍道湖・中海の生物環境と漁業(島根県内水面水産試験場・中村幹雄)
  宍道湖・中海における島根県内水面試験場での調査の詳細とその結果に基づく
 水質・生物環境の特徴および両者の関係等が紹介された.
 汽水域の生態系の特徴として,生産性が大きい反面環境の変動が激しく脆弱であり,
 宍道湖・中海についても塩水と貧酸素水塊の挙動に生態系が
 大きく影響されることが示された.
 漁業についても,汽水域の一般的な特徴として,生産性は高いが
 年変動が大きいなどの特徴が述べられ,全国の汽水域と比較して
 シジミ漁など宍道湖・中海の特徴が紹介された.
 さらに,水産振興策として,貧酸素対策や浅場造成等いくつかの提案がなされた.
 また,宍道湖・中海の環境改善について具体的な課題が挙げられ,
 特に貧酸素化対策の重要性が強調された.

B.生態系モデルを用いた水質・生態系の予測
(座長:土木学会沿岸生態系評価研究会・青木伸一)

(1)生態系としての解釈が何故必要か−生態系モデルの役割−(水産工学研究所・中村義治)
  沿岸域の環境問題を,物理,化学,生物的な相互作用を包括的に考えた
 生態系としてとらえることの重要性がまず指摘され,生態系モデルの概要が紹介された.
 さらに生態系モデルを用いることにより,現状認識だけでなく,
 適切な評価指標を選択することにより系としての評価を行ったり,
 環境改善のための方策に関する代替案のシミュレーションを行うことができる
 ことが述べられた.また具体的に宍道湖・中海の計算結果を用いて,
 系の物質循環の特性解析や優先種(ヤマトシジミ)の役割を検討した例が示された.

(2)生態系モデルの宍道湖・中海への適用((株)シーティーアイ・田口浩一)
  宍道湖・中海を対象にした具体的な生態系モデルの計算法と計算結果が紹介された.
 まず,計算モデルの概要と計算条件,入力データの説明があり,
 実際に1998年4月から1999年3月までの1年間について流れ,水質,生物生産について
 計算を行った結果が示された.流動の結果については,大橋川を遡上して
 宍道湖へ流入する高塩分水の挙動パターンが示された.
 水質・生態系については,現地観測結果との比較により計算の妥当性および
 今後の改良点などが議論された.宍道湖のヤマトシジミと中海のホトトギスガイの
 水質に対する影響については,貝の存在が栄養塩や貧酸素水塊の増大を
 抑制する効果があることが示された.
 最後に,大橋川の河道の一部を浅くして中海からの底層水の流入を防いだ場合の
 変化に関するシミュレーション結果が紹介された.