開催趣旨


  日本の内湾の河口域は歴史的にも漁場として活用されてきたが、水質悪化や大規模な埋立や干拓によりその物理環境は大きく変貌し、漁場の喪失や崩壊が生じた。河口域は陸域と海域の接点にあって、その環境は背後地の開発・保全の状況を反映している。また河口域は公害でも環境問題が顕在化し、対策も進められてきた。

  一方、河口域は、水産業の面だけでなく、生物多様性、バイオマスの観点からも改めて、その保全や再生が注目されている。本シンポでは、地域での長年にわたる調査研究をもとに、河口漁場の変遷を漁業・生物・土砂や地形を中心とする物理環境の点から俯瞰的に議論する。アサリやノリ、甲殻類など内湾の漁業生物として指標性の高い生物種を挙げ、比較論の観点からも論ずる。

  河口漁場環境の研究は水産学では1970年代以前には各地で盛んに行われていたが、漁場の悪化により研究自体も少なくなった。現役の沿岸環境研究者の多くが、過去の漁場や漁業の状況を聞いて、その想像を絶する豊かさに驚くような状況となっている。水産資源崩壊、豊かな漁場、という言葉から想起する内容も世代により異なっており、たとえば再生目標の議論などでも整理が困難なことも多い。特に東京湾については、豊穣の海だった時代を克明に記憶されている方々のお話を伺い、文書化されていない情報を継承する緊急性も高まっている。

  現在、環境の再生が検討されている東京湾と有明海の代表的な河口域を対象とし、開発段階が異なるこれら2湾の比較により論点を明らかにする。「東京湾の河口漁場の崩壊過程が、時間差をもって有明海に迫ってきていた」との作業仮説をもとに、議論を行う。
  東京湾では、環境悪化が深刻だった高度成長期以降に、各種の水質・環境対策がなされてきたが、数十年にわたる努力の結果、河口域の生物たちがよみがえりつつある。これらは、「再生」という長期間にわたる多方面の努力の将来的なビジョンを描く上でも重要な知見と考えられる。

  研究者や自治体が作成した環境変遷の資料をもとに、崩壊に関与した要因の洗い出しを行い、複数の要因が時間差をもって影響する環境問題への対処を考える。

  特に、地域に即した長期モニタリングによる水産生物情報や研究の「予防」や「再生」への貢献に注目したい。


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